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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

「お腹が空いちゃったけれど、何にもないからこれでごまかすのよ。」

周平は眼を見張った。

「君は家でも酒を飲むのかい。」

「まさか。」と云って彼女は笑った。「これは取って置きのものよ。少し古いけれども、腐ってやしないでしょう。腐ってたって構やしない。……あ、そうそう、いいものがあるわ。」

彼女は茶箪笥から砂糖豆のはいってる紙袋を取ってきた。

「これで洗いざらいの御馳走よ。」

そして二人は、火燵にはいって顔を見合した。

ことりとの物音もしなかった。変に威圧するような静けさだった。周平は呆けた気持で、彼女の顔を見つめた。今迄気づかなかったことだが、額から眼の下へかけて薄い雀斑があった。けれど、くっきりと切れた上眼瞼の二重が、如何にも美しかった。彼女はその眼をちらと大きく瞬いて云った。

「いやな人ね、私の顔ばかり見つめて。少し何かおあがんなさいよ。」

彼女は砂糖豆をかじり、海苔をしゃぶり、またちびりちびり冷たい酒を飲んでいた。周平も仕方なしに、その方へ手を出した。

火燵の中が温まると共に、冷たい酒が悪く頭に上ってきた。彼は軽く眉根を寄せて、室の隅に眼を据えた。そういう彼の方へ、お清はいやに鋭い眼を見据えてきた。