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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

その疑惑はやはり吉川のことの上に及んでいった。

不満と疑惑とのうちから覗くと、彼女の心は益々捉え難い遠くへ離れ去っていくように思えた。自分一人迷霧の中に残されたような気がした。彼は気持が苛立ってくるのをどうすることも出来なかった。その苛立ちの念から、知らず識らず隆吉に対して更に冷淡になっていった。

二三の質問に応じて形式だけの義務を尽すと、周平は残りの時間を利用してやろうという気も起さないで、疊の上にごろりと横たわった。室の窓から夾竹桃の梢越しに、狭い空が見えていた。雲の影も鳥の姿も宿さない静かな空だった。じっと眺めていると眼が疲れてきた。瞬きをして顔を横向けた。隆吉はやはり机の前に坐りながら、ぼんやり書物に眼を落していた。心では他のことを考えてるらしかった。それも、怠惰からではなくて、怜悧な頭の余裕からであった。どんなことを考えてるのだろう? そう思うと小憎らしくなった。

隆吉は彼の顔をちらと見て、心持ち身体を押し進めてきた。

「井上さん、僕お父さんの夢を見たよ。」

「え、どんな夢?」と周平は云った。

「お父さんが宙に飛んでたの、真直に飛んでた。」

「それから?」