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とりかじ

取舵

泉 鏡花

「太陽 創刊号」

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,453 字 · 15 页

青空文庫

僕も好奇心でね、話の種だと思ッたから、そのまま乗って出るとまた驚いた。

実に見せたかッたね、その疲曳の盲者がいざと言ッて櫓柄を取ると、然としたものだ、まるで別人さね。なるほどこれはその道に達したものだ、と僕は想ッた。もとよりあのくらいの潟だから、誰だッて漕げるさ、けれどもね、その体度だ、その気力だ、猛将の戦に臨んで馬上に槊を横えたと謂ッたような、凛然として奪うべからざる、いや実にその立派さ、未だに僕は忘れんね。人が難のない事を(眠っていても出来る)と言うが、その船頭は全くそれなのだ。よく聞いて見ると、その理さ。この疲曳の盲者を誰とか為す! 若い時には銭屋五兵衛の抱で、年中千五百石積を家として、荒海を漕廻していた曲者なのだ。新潟から直江津ね、佐渡辺は持場であッたそうだ。中年から風眼を病らッて、盲れたんだそうだが、別に貧乏というほどでもないのに、舟を漕がんと飯が旨くないという変物で、疲曳の盲目で在ながら、つまり洒落半分に渡をやッていたのさ。

乗合に話好の爺様が居て、それが言ッたよ。上手な船頭は手先で漕ぐ。巧者なのは眼で漕ぐ。それが名人となると、肚で漕ぐッ。