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とりかじ

取舵

泉 鏡花

「太陽 創刊号」

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,453 字 · 15 页

青空文庫

……」

盲人は数多渠の足下に叩頭きたり。

学生は渠が余りに礼の厚きを訝りて、

「うむ、便所かい。」とその風体を眺めたりしが、

「ああ、お前様不自由なんだね。」

かくと聞くより、盲人は飛立つばかりに懽びぬ。

「はい、はい。不自由で、もう難儀をいたします。」

「いや、そりゃ困るだろう。どれ僕が案内してあげよう。さあ、さあ、手を出した。」

「はい、はい。それはどうも、何ともはや、勿体もない、お難有う存じます。ああ、南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏。」

優しくも学生は盲人を扶けて船室を出でぬ。

「どッこい、これから階子段だ。気を着けなよ、それ危い。」

かくて甲板に伴いて、渠の痛入るまでに介抱せし後、

「爺様、まあここにお坐り。下じゃ耐らない、まるで釜烹だ。どうだい、涼しかろ。」

「はい、はい、難有うございます。これは結構で。」

学生はその側に寝転びたる友に向いて言えり。

「おい、君、最少しそっちへ寄ッた。この爺様に半座を分けるのだ。」

渠は快くその席を譲りて、

「そもそも半座を分けるなどとは、こういう敵手に用う易い文句じゃないのだ。」

かく言いてその友は投出したる膝を拊てり。学生は天を仰ぎて笑えり。