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とりかえしものがたり

取返し物語

岡本 かの子

「大法輪」1934(昭和9)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,882 字 · 28 页

青空文庫

雲はだいぶ退いて行って、黎明前の落ちついたみずみずしい空の色。上手から源兵衛とおくみは肩をすり合うようにして出て来る。)

源兵衛『男がおなごに家まで送って貰うという法があるかい。ここまで来れば家へ着いたも同様。そなたの念も届いたと言うものだ。さ、今度はわしがそなたを御主家まで送ってやりましょう』

おくみ『送って貰うはうれしいけれど。こなた、その戻りに衣川の宿場を通ってうっかり、夜明しの茶屋などに寄って往くまいものでもなし――』

源兵衛『あきれた悋気おんなだ。そなたと言うれっきとした女房があるのに、何で今更の浮気。つまらぬ云い合いに手間取る暇に、その松明こっちへ貰おう』

おくみ『また、うまくわたしを騙しなさろうとて、その手には乗りませぬ』

源兵衛『またその手に乗らんとは、わしがそなたを騙したと言うのか』

おくみ『お騙しなさんしたとも。今朝のうちから、さっきのいままで』

源兵衛『そなたが来るのを留守にしたのは、拠所ない若衆会所の相談。それも御門徒の一大事に就ての談合と、道々も口を酸くして聞かしてやったではないか』

おくみ『それがほんとなら、大事ないけれど』

源兵衛『言いがかりもいい加減にしやれ、さあ、もう夜明けも間近だ。