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とりかえしものがたり
取返し物語
岡本 かの子
「大法輪」1934(昭和9)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,882 字 · 28 页
頼む。御主家へ戻って呉れ』
おくみ『わたしゃ、どうあっても嫌じゃわいなあ』
源兵衛『すりゃこれほどに頼んでも』
おくみ『死んでもお傍を離れませぬ』
源兵衛『帰れ』
おくみ『いやじゃ、いやじゃ』
(二人、また揉み合うところに、源右衛門の家の垣の中に声あって)
×××『二人とも争うには及ばぬ。こちへ入れ。直ぐに夫婦にしてやろう』
源兵衛『そういう声は、父者の声』
おさき『親が許して夫婦の盃、御仏前でさすほどに、おくみ坊も早う、こなたへ入るがよいぞや』
(裏の背戸開く)
おくみ『これはまた、どうした運やら。たとえ狐狸の仕業とあっても、わたしゃ悦んで騙されよう。のう源兵衛さま』
(源兵衛の手を取って背戸より入る)
(夜はしらじらと明け、暁の鐘が鳴る)
第三場
(垂幕、湖水の漣に配して唐崎の松の景。朝の渚鳥が鳴いている。
源右衛門と源兵衛旅姿で花道より出で来り、程よきところにて立止まる。)
源右衛門『これ、忰、暫らくの間の故郷の見納め、この辺で一休みするとしようかい』
源兵衛『此の期になって、のんきらしい………。早うこの首うって三井寺へ駆けつけさっしゃれ』(片膝つき右の手で頸を叩く)