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くちぶえをふくぶし

口笛を吹く武士

林 不忘

「サンデー毎日」1932(昭和7)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,467 字 · 21 页

青空文庫

」

「兄者、兄者と、兄者を売りに来てやしめえし――停めるな。」

「うふっ、留めやしません。」

「いずくへ? とは、はて知れたこと。隠密に出るのだ。あんまり、柄に適った役割りでもねえがの。」

「というと、いずれかの方面に、何かお心当りでもおありなので――。」

「ねえんだよ、そんなものあ。」

いいながら、狂太郎は、馬鹿ばかしく長い刀を、こじり探りに落とし差して、

「だが、犬も歩けば棒に当たる。あばよ。」

もう、土間へ下り立っていた。

そして、うら金のとれた雪駄をひきずって、すたすた通用門へかかると、

「通るぞ。雑魚一匹!」

破れるような声で門番の足軽へ呶鳴って、さっさと松阪町のとおりへ出た。

綿流し独り判断

一

が、すぐ門のそとに立ちどまって、往来の左右へ眼をやった。

年の瀬を控えて、通行人の跫音のあわただしい街上だ。

「東西南北――はて、どっちへ行ったものかな?」

笑いをふくんだ眼で、狂太郎はそうひとり言をいって首を傾げた。

鍔擦れで、着物の左の脇腹に、大きな穴があいて、綿がはみ出ている。

狂太郎は、その綿を、二つまみ三摘みり取って、ふっと吹いてみた。