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くちぶえをふくぶし
口笛を吹く武士
林 不忘
「サンデー毎日」1932(昭和7)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,467 字 · 21 页
「これ、わしにばかり謝まらせておらんで、お前もすわって――いえ、お侍さま、これはすこし、変り者でございまして、気はしごくよろしいのでございますが。」
そして必死に、唯七へ眼くばせした。
すると狂太郎は、びっくりするほど大きな声で笑って、
「変り者か。うふふふ、変りものにゃあ違えねえ。武士が、町人の服装をしておるのだからな。」
武林と、ちらと素早い視線を交した新六が、
「滅相もないことを! わたくしどもは、正直正銘、生れながらの町人なんで。下谷の者でございます、へえ。商用で、ちょっと上方のほうへまいっておりましたのが――。」
狂太郎は、抜け上った唯七の額へ眼をやって、切り落とすようにいった。
「面擦れ――こら、この面ずれが、何よりの証拠だ。」
唯七の指が、襟元を握っている狂太郎の手へ、しずかに掛かった。
「売り物なら、買おうか。」
「この男は売りもの――だが、止めた。もう、貴様らにゃあ売らねえ。」
「売る喧嘩なら、買おうかというのだ。」
新六が、叫ぶようにいって割りこんだ。
「お前は、まあ、相手も見ずに、お侍さんに何をいうのだ――。」
「ふん。」狂太郎は、小鼻をうごめかして、「この手、ほら、この、おれの手を取る手が――おめえ、柔術は、相当やるのう。