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ふるきミニエチュア
古き小画
宮本 百合子
「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页
スーラーブは、フーマンが何時の間にか、自分の傍を去ったのさえ知らなかった。彼は一人で苦笑いを洩した。そして、疲労を恢復させる必要から、すぐ寝台に横わった。が、眠りはなかなか来ず、漠然とした不安が、夜の幕営の裡で彼の心にのしかかった。戦場で、父とめぐり合うということは、彼が空想で描いたほど真直に工合よくは行かないらしいことが明かになって来た。スーラーブは、肌身はなさず持っている母の記念の頸飾を、片手で触った。不意に、サアンガンの城のことや、シャラフシャーのことや、遠い祖父の臨終のこわかった記憶が、きれぎれに通り過ぎた。彼はそのまま寝入った。
四十一
翌朝は、晴てはいたが雲の多い天候であった。薄い雲母でも張ったようにむらのない白雲が、空一面蔓(はびこ)り、その奥から太陽が、平たく活気なく曠野の乾いた土地や蕁麻、灌木の叢を射た。スーラーブは、早朝、天幕の隙間隙間から白く差こむ光で目を醒した。すぐ、今日の一騎討のことを思い、彼は、平気なような不安なような妙な心持になった。食慾がないのを、殆ど無理に、疲れまいとする要心だけから多くの食物を摂った。