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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

フェルトの長靴は、地に跫音を立てない。背後に両手を組合せ、歩き廻っているうちに、ルスタムの顔に、だんだん違った表情が現れて来た。彼は、時々、一二間先の地面に落している視線をあげては、何者かを求めるように、自分の囲りを見廻した。彼の心には、苦しい、悩ましい空想が蘇って来た。若しや、万一、あの若者は、自分の虫が知らせた通り、自分の未だ見ぬ自分の息子なのではないのか。血が血を牽く微妙な働きで、あの戦場のならわしにはないことが起ったのではあるまいかという思いが、こびりついて、彼の心で蠢き出したのであった。

さんざん歩き廻った末、ルスタムは心の動揺に堪えない風で、天幕の一隅に跪いた。そこには一つの櫃(ひつ)があった。彼はその蓋をあけ、中から皮袋をとり出した。

櫃を元のようにすると、ルスタムは袋を持って、ほぼ天幕の中央に胡坐をかいた。考えに沈みきった面持で、彼は袋の口を解いた。そして三寸ばかりの白檀の数片と、燧石(ひうちいし)とを出し、大きな指先で丁寧にその白檀の小片を、小さな尖塔形につみあげた。彼は燧石をすって、それに火を点じた。木片の端にちろちろした火は次第に熱と耀きとを増し、夜の空気の中に高い芳しい白檀の薫香を撒き始めた。