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ふるきミニエチュア
古き小画
宮本 百合子
「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页
ルスタムは、震える手でスーラーブの頭を膝に抱きあげ、顔を視守ったまま、大きな声で、
「ギーウ! ギーウ!」
と叫んだ。ギーウはすぐそこにいた。ギーウばかりではない。ツランとイランの全軍がついそこにいた。スーラーブの刺されたのを認めた両軍は、一方は悲傷の黒い波のように、一方は勝利の旗のように、中央めがけて突進して来た。が、突然、思いがけないルスタムの挙動が彼等の歩調をのろくさせ、やがて全く停止させた。彼等、数名の眼が、二人の戦士を遠巻きにし、戦いを忘れ、畏怖に打たれてじっと一点に注がれているのだ。ギーウは、のぞき込んで二人を見較べた。
「何事だ?」
ルスタムは、訴えるように、汗と涙でよごれきった顔をあげた。
「見てくれ。最後の手柄に息子を殺した。――信じられないことが事実になった。すぐ王の処へ行って、血止薬を貰って来てくれ。チンディーの名薬がある筈だ。簡単に、速く!」
ギーウが戻る迄、ルスタムは、傍の者を恐れさせた程真剣な、つきつめた一心に夢中になった様子でスーラーブの傷に手当をした。彼は、叱りつけて水をとりにやった。思うようにならない老年の、ぎごちない指を縺らせながら自分の帯を解いて傷を縛った。