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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

と云った。そして、ろくに手をつけない食膳を押しやって立ち上った。

「今日は、少し用事があるから、皆には卿の指図でよろしくやって貰おう」

彼は、数間内房に行く方角に向って歩き出した。が急に気をかえたらしく、シャラフシャーを顧た。

「面倒でも、卿に今日は内房に行って貰おう。シャラフシャー、私は疲れているので御挨拶に出ませんと、伝えてくれ」

シャラフシャーが立ち去ると、スーラーブは、居心地よい落付き場所をさがすように、ぶらぶら室じゅうを歩き廻った。

けれども、いつ外から挙げられまいものでもない彼方此方の垂幕が気分を落付かせない。遂に、彼は、城の望楼を思いついた。あそこなら誰も、丁寧な無遠慮で自分を妨げる者はないだろう。

十一

稍々疲れを感じるほど、長い、薄暗い、螺旋形の石階を登り切るとスーラーブは、一時に眩ゆい日光の海と、流れる空気との中に出た。ここは、まるで別世界のようだ。音もせず、空に近く明るい清水のような空気に包まれて、狭い観台の上では、人間が、天に投げられた一つの羽虫のように、小さく、澄んで感じられる。スーラーブは、始めて吸うべき息のある処に来たように、心から、深い息を吸い込んだ。