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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

然し、スーラーブは、その晴やかな外景を、至極、恬淡(てんたん)な、放心した状態でながめた。

黙って働いている人間の姿も、陽炎(かげろう)でちらつく広場の様子も、何かひどく自分とは無関係な、よそよそしいものに感じられる。

一心籠めて考えなければならないことがある。――しかも、その考えなければならないのは何なのか、はっきり当がつかず、徒らに不安を感じるという、落付かない心持になるのだ。スーラーブは、やや暫く、歩廊の石畳の上を、往ったり来たりしたが、気を鎮めるに何のかいもないと知ると、歩をかえして、内房を出た。スーラーブは十九年の間隠されていた父の名を知ることが、これ程の動顛を齎すものとは知らなかった。

二

ツランでは、男の子が生れると満七歳になる迄、母の内房でばかり育てられることになっている。スーラーブも、七度目の祝の日が来る迄、自分の囲りに、女ばかりを見て育った。大きくなってからでも、彼は、よくその時代の追憶を、朦朧(もうろう)と、一種神秘的な色彩を添て思い出した。今見る内房とは、まるで違うように思われる、少し薄暗い、静かな、好い匂いの漂っていた奥の部屋。