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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

ルスタムは、ぶらぶら歩きながら、幾度となくその方を眺めた。一度眼が其方に向くと、容易に引はなされなかった。明りはルスタムの心に、だんだん光明を増し、誘惑の力を増した。全く、ルスタムはその篝火の色や、静かに反映している天幕の面を視ると、もっと近くもっとよく其処にいる者、あの兜の男を見極めたい慾望が、制し難く募って来るのを感じた。ひっそりした天地の間に輝くその光は、時々ぱっと揺れ、燃え立ちながら、溢れるような囁きで、「一寸今の間に、よい時ではないか。来て覗け!」と誘っているようにさえ思われる。ルスタムは、何か巨大な磁石で自分の体の其方に向っている半面が、ぐいぐい引きつけられるような危さを感じた。

彼は、それに抵抗しようとするように、努めて、其方に背を向けた。そして、四五間元来た方に引返えしかけた。が、彼はぴたりと立停った。闇に浮き上って見える纏布の頭を重く垂れて、何か考えた。――再びルスタムは、ツランの陣に向って立った。彼は、せかない足どりで、最前線に燃火を囲んでいる哨兵の一団のところへ行った。彼は、其処で一本の軍用棍棒を借りた。それを持ってルスタムは、誰の眼にもふれない曠野の真中に出て行った。