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ふるきミニエチュア
古き小画
宮本 百合子
「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页
笑う声がした。ルスタムはいやな心持になった。
三十二
厭な心持になって、却ってルスタムのためにはよかった。当なく憤然としたような感情が、彼に、年寄のがっかりさを忘却させた。大天幕から外へ出た男が戻るのを待ち、ルスタムは、再びやや隔った次の隠れ場所に移った。陣地のはずれの大体安全な場所に辿りつくまで、ルスタムは、退屈に、来る時の亢奮を全然失った。必要からばかりで、注意深い位置の転換を行った。幸、誰にも見咎められず、高地の端まで出ると、彼は来た時のようにずっと南側を大廻りせず、そこから真直にイランの陣に向って降り始めた。四辺目の届く範囲に哨兵はいなかった。彼はもう、一歩も無駄足はしたくない心の状態にあったのだ。
ルスタムは、体を反らせて平均を保ち高地の半分以上降りきった。時々蹴落された礫が砂まじりの泥と一緒に弾んでゆき、下の方で微かな音を立てた。もう夜は黎明に向ったと見え、高地の中腹から見晴らす広い空の紺黒い色も星の輝きもほのかな軟かみを湛えて来た。
丁度彼がもう少しで高地を降り切ろうとする時であった。不意に一つの黒い影が、彼の横手から現われた。