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こてんふう

古典風

太宰 治

「知性」1940(昭和15)年6月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,400 字 · 21 页

青空文庫

「うむ、なるほど。」詩人、煙草をふかしながら、「ネロは、それゆえ、母をなくした。お母さん、おゆるし下さい、私は、あなたのものじゃない。母は、苦しい息の下から囁く。おまえ、お母さんが憎いかい?」

美濃は興覚め顔に、「まあ、そんなところさ。」椅子から立ちあがって部屋の中を歩きまわり、「追い詰められた人たちは、きっときっと血族相食をはじめる。」

「よせよ。どうも古い。大時代だ。」詩人は、美濃の此のような多少の文才も愛しているし、また、こんな物語を独りでこっそり書いている美濃の身の上を、不憫にも思うのだが、けれども、美濃のこんどの無法な新手の恋愛には、わざと気づかぬ振りをしていようと思った。「まるで、映画物語じゃないか。」

「呑むか?」美濃は、机上のウイスキイの瓶に手をかけた。

「敢えて辞さない。」詩人も立ちあがった。

これでいいのだ。

「ロオマの人のために。」ふたり同時に言い、かちっとグラスを触れ合せる。「滅亡の階級のために。チェリオ。」

E

人のこころも

まこと信じてもらうには

十字架に

のぼらなければ

なるまいか

(イヴァン・ゴル)