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こぼく
古木
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,648 字 · 24 页
「あの木を、お伐りになりますか。」
暫く間をおいて、巳之助は独語のように呟きました。
「伐ることにしよう。」
小春日和の暖い日でありました。天気も穏かで、柴田巳之助の容態も穏かでした。栗野老人が来たことを聞くと、柴田巳之助は自らちょっと逢いました。他人に逢う時にはいつもする通り、布団の上に坐り、脇息にもたれていました。
栗野老人は、鳶職の頭、というより寧ろ仕事師の頭で、柴田家には先代の時から出入りしていました。巳之助から応対正しく迎えられて、如何にも恐縮した様子で畳表を敷きつめた縁側に身を屈め、病気見舞の言葉を述べ立てました。
それを上から押っ被せるように、巳之助は言いました。
「実は、一つ厄介な仕事があるんでね、これは、植木屋にも棟梁にも手に負えまいから、頭に引き受けて貰いたいんだが、どうだろう。」
仕事のこととなると、栗野老人はきっと顔を挙げました。
「椎の木のことでございましょう。若旦那から承りました。」
巳之助はじっと相手の顔を見ました。
「やってくれるかね。」
「お任せ下さい。伐り倒すばかりか、薪なら薪、木っ端なら木っ端と、お望み通りにこなして御覧に入れます。