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こぼく
古木
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,648 字 · 24 页
椎の木ってやつは、情けないもので、木材としての用には立ちませんな。ですが、あれが焼けちまったのは、残念でした。私共が赤ん坊の時から、今通りの大きさでしたから、どれぐらい年数を経たものでしょうか。この界隈の目標で、お邸の大黒柱でしたからな。あれが焼けちまったのも、まあ、お邸の身替りに立ったものと、そう思っちゃいますが、まったく、惜しいことをしました。あのままで、上枝をおろして、苔をつけさせ、蔦でも絡ませるのも、風流なものだろうと、若旦那にも申しあげましたが、そうした庭の造作には、なんとしてもちっとでかすぎて目立ちすぎますからな。却って目障りになるかも知れません。」
「ほかの樹木をいためないように、倒して貰いたいんだがね。」
「それはもう、充分心得ております。まず見当では、三回に伐りますかな。」
「それから、切株を、二三尺残しておいてほしいね。」
「なるほど、面白いお考えですな、大丈夫、まっ平らにして、磨きをかけましょう。そこに餉台をだして、座布団を敷いて晩酌を一二本……いいですなあ、崖の上なもんで、いつも凉しい風がございますよ。中に空洞さえなければ、申し分ありませんが、勢のいい木でしたから、案ずるほどのことはありますまい。