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こぼく
古木
豊島 与志雄
――近代説話――
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,648 字 · 24 页
夕方など、蟇が眼を光らしていることもありました。
秋になると、椎の実が落ちました。まだ歯の丈夫な祖母は、椎の実が好きで、天火で炒って食べました。祖母が亡くなってからは、子供たちはもう椎の実も拾わず、その辺で遊ぶことも少くなりました。家屋に近い藤棚の下や桜の木の下に、楽しい場所がありました。
巳之助が中学の上級になりました頃、父と懇意な今井さんのうちの久江が、しばしば遊びに来ました。久江は女学投に通っていて、学校の宿題をいつも巳之助に教わりました。花模様の銘仙の着物に、海老茶の袴を胸高にしめて、髪をおさげにしていました。
むつかしい問題にぶつかって、巳之助が頭をひねっていますと、久江は他人事のように言いました。
「男のくせに、そんなのが分らないの。」
それで、諍いとなりました。
問題があまり容易いと、巳之助は不満で、軽蔑したように言いました。
「こんなものは、小学校の問題で、くだらないよ。」
それで、また諍いとなりました。
そうした諍いのあと、或る時、久江はほんとに怒った顔をして、ぷいと庭へ出て行きました。そしていつまでも戻って来ないので、巳之助も庭に行ってみました。