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ねむのきのかげ

合歓木の蔭

山本 周五郎

「新読物」交友社 、1948(昭和23)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,740 字 · 27 页

青空文庫

刀はぎらりと青白く閃光をとばしたが、そのままがっしと腕ごと相手にかかえこまれた。「――卑劣なやつだ」半三郎はかかえた腕を逆に絞りあげた、「おまけに馬鹿者だ、ここでおれを斬ってどうする、――貴様の悪い癖は聞いていたがこれほど底ぬけの馬鹿とは知らなかった、狐め」こきっと骨が鳴り、半三郎の手に男の刀が奪い取られた。男は右腕を曲げたまま獣のようにうめきごえをあげて横ざまにすっとんだ。

「二度と来るな、世間へは云わずにおいてやる、帰って自分の顔をよく見ろ」

男は鼬のように逃げ去っていった。

半三郎はもぎ取った刀を提げたまま生垣をまわってゆき、塀の切戸から庭へはいった。彼の眉はしかんでいたが、怒りや悲嘆の色は少しもなかった。――すでに三度、ひそかにその密会にたちあって、二人の関係がどのようなものかを知っていた。男は老職なにがしの二男で、そういう悪癖のあることでは定評のある人間だった。これは一喝くれれば片がつく、だが妻をどうしたらいいか、どうすれば悲劇が避けられるか、どうしたら妻を無事にそこから救い出すことが出来るか。

問題はそれだけであった。半三郎は三度まで彼らの側に身をひそめて、会話のなかにその鍵をみつけだそうとした、そして今その唯一の方法を発見したのであった。