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ねむのきのかげ
合歓木の蔭
山本 周五郎
「新読物」交友社 、1948(昭和23)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,740 字 · 27 页
……叔母は父のただ一人の妹である、数馬五郎左衛門という五百石の大寄合へ嫁したが、娘時代から明けっ放しのがらがらした性質で、無遠慮になんでもずばずば云う癖がある、云ってしまえばさっぱりするらしい、人はごくいいので、そのために憎まれるほどのこともないが、深い付合いをする人もないようだ。今日もいきなり「お祖母さま」と云いだしたが、椙原の家では奈尾の幼いじぶんからお祖母さまのことには話しを触れないのが習慣である、病身でいつも寝たり起きたりしていた母がまだ生きていたころ、ばあやのそのとそれらしい話をしているのを聞いたこともあるが、子供ごころになにか綺羅びやかに美しい罪という感じがしただけで、くわしいことはなにも覚えていない。けれどもその「綺羅びやか」に「美しく」しかもそれが罪であるという印象は、奈尾にとって胸のときめく秘やかな憧憬の一つだったのである。
花を見ても美しい衣装を見ても満足しない眼、いつも途方もない遠いところを見ているような眼。叔母はそう云った。自分ではわからないが、そんなところがあるかもしれない。小さいときから現実の自分とは別に、本当の自分がどこかに生きているような気持をときどき感じることがあった。