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よしだしょういん

吉田松陰

徳富 蘇峰

「国民之友」1892(明治25)年5月~9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 135,622 字 · 269 页

青空文庫

彼の家庭における位地もまた分明ならずや。

彼が江戸獄中にて、いよいよ死刑の詮議一決したるを洩れ聞くや、彼は実にその父母に向って、左の歌を贈れり。

親を思う心にまさる親心

きょうの音ずれ何と聞くらん

と。彼は死に抵るまで、その父母を遺るる能わざりしなり。否、死するに際して、第一彼れの念頭に上りし者は、その父母にてありしなり。自ら父母を懐うのみならず、父母の己れを懐うこと、さらに己が父母を懐うよりも幾層殷なるに想着し、「今日の音ずれ何と聞くらん」という。「親を思う心にまさる親心」の一句、実に世間幾千万、人の子たる者が、親に対する至情の、最後の琴線に触れ来りたるものにして、彼の方孝友が、方孝孺と与に死に就くに際し、「阿兄何ぞ必ずしも涙潸々たらん、義を取り仁を成すはこの間に在り、華表柱頭千載の後、夢魂旧に拠りて家山に到らん」の一詩を将てこれに比すれば、さらにその深情、濃感、蘊籍、渾厚、一読人をして涕を零さしむるに至るを覚う。かくの如き人にしてかくの如き事を作す、不思議なるが如しといえども、かくの如き人たるが故に、能くかくの如きことを為し得るなり。いわゆる忠臣を孝子の門に求むるの語、吾人実にその真なるを疑う能わず。