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よばれしおとめ

呼ばれし乙女

岡本 かの子

「令女界」1938(昭和13)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,165 字 · 11 页

青空文庫

「でも、お父さまが、どう仰有るかしら」

「それは、私がとりなしとくわ」

千歳は、姉のいう言葉が、いちいち尤もだとは思った。だが、こういう常識的なとりなしの分別ばかりあって、一度自分の婿まで定りかけ、お互いの間にやや濃厚な気持さえ醸したらしい慶四郎の病気を、いくら名ざして来たとて妹の自分に任せようとする姉の陰性も嫌いだった。

姉は、薄皮の瓜実顔に眉が濃く迫っている美人で、涙っぽい膨れ目は艶ではあるが、どんな笑い顔をも泣き笑いの表情にして、それで平生は無難なまとまった顔立ちでも単純だった。たとえ、それが姉であっても千歳には何か飽足りないもどかしい感じだった。だが向き合ってみると亡き母に生うつしの姉だった。千歳は、そこにこの姉への懐しみといとしさを感じた。

千歳は、くるりと姉の方へ向直った。そして、姉の左の手へ自分の右の手の指を合せながら、

「じゃ、まあ、行ってみるわ」

「そうなさい、そうしてよ」

千歳は、この姉が、自分に出来ないことはいつも妹にして貰い、それによって様子の脈をひく性分であることも充分承知していた。

千歳が、明日の朝の箱根行きの仕度をしに部屋へ引取ろうとすると、仲子は鼻声で言った。