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ぜんあくりょうめんねずみこぞう
善悪両面鼠小僧
国枝 史郎
「ポケット」1925(大正14)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,231 字 · 21 页
「何だそれは? 薬じゃないか」
「はい左様でございます。長崎の異人から貰ったところの変相薬にござります。……飲むと同時に神を念じます。……サンタマリヤ! アベ・マリヤ! ハライソ! ハライソ! ハライソと。そうすると姿が変わります」
「それじゃ貴様、吉利支丹だな!」
「旦那! お縄を戴きやしょう!」
次郎吉はパッと肌を脱いだ。
胸に黄金の十字架が燦然として輝いている。
「もうお見遁しはなさるめえ! 旦那、お縄を戴きやしょう!」
「ところが、それが左様いかぬのだ」
軍十郎は暗然と云った。
「乃信姫君にはご懐胎じゃ! 産み落すまでは姫へも其方へも指一本さすことならぬ! 箱根へ行け箱根へ行け!」
十月経つと乃信姫君は因果の稚を産み落としたが、幸か不幸か死産であった。間もなく乃信姫も世を去られたがそれは自殺だということである。
それを前後して一人の賊が、軍十郎の手で捕えられたが、実は自首だということである。
鼠小僧事和泉屋次郎吉。これがその賊の名であった。
「薬を飲んで変相すると、急に悪心が萌しましてね、どうでも悪事をしなければ苦しくて苦しくて居たたまれないのです。所でもう一つの薬を飲んで元の体に返りますと、今度は善心が湧き起こり、他人のために慈善をしないとこれ又苦しくて耐らないのです。