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もふく

喪服

久生 十蘭

「文學界」1957(昭和32)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页

青空文庫

一郎さんなんか、居なくなってくれたら、どんなにサバサバするだろうと思うことがあるの……この点、パパもママも同感でしょうけど……あたし泣きたくなったから部屋へ行きます……パパ、また近いうちにお目にかかりましょう。(食堂から出て行く)

浜口 美紗だけだと思ったら、八穂まで……お前はどうなんだ?

静江 あたしは見物しているだけ。

浜口 美紗がそんなことになっているのを、面白がっているわけでもなかろう。なぜ、もっと早く始末しない。

静江 「カラマーゾフの兄弟」という小説に、幸福な結婚ができるはずの娘が、なんの理由もなく、岩から身を投げて死んでしまう話があるでしょう。

浜口 (舌打ちをする)……

静江 その娘はオフェリアの真似をしたかったので、その岩がローレライの岩のように美しくなかったら、自殺なんかしなかったろうなんて書いてあったけど、あたしの解釈じゃ、結婚して、すぐ醜っともなくなって、美しい夢を壊してしまうより、身を投げて、愛するひとの記憶の中に永久にとどまっていたい……自分の死に同情して、思いだすたびに涙を流してもらいたい……その程度の思いつきだったろうと思うの。