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もふく

喪服

久生 十蘭

「文學界」1957(昭和32)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页

青空文庫

浜口 着換え? なにをしていた?

かつ 喪服を召して、姿見の前で……

浜口 喪服?……八穂は?

かつ 顔を洗ってから行くとおっしゃいました。

静江 かわいそうに泣いていたんだわ。

浜口 (かつに)退っていいよ。

かつ はい。(退場)

浜口 秋元君、美紗や八穂に、電話で知らせたのか? 一郎が死んだことを……

秋元 いゝえ。

浜口 ……死んだにはちがいないが、いまから喪服とは、手まわしがよすぎるようだな。

静江 お友達が亡くなったとき、喪服が間にあわなくて、せんだって届いたのを、こんどはじめて着るんです。楽しみにしていましたから、たぶん、そんなことなんでしょう。

美紗、入ってくる。

美紗 秋元さん、いらっしゃい。むずかしい顔をしているのね。なにかあったんですか。

静江 (美紗に)かつが行ったら、あなた喪服を着ていらしたって……一郎さんが死んだこと、ごぞんじだったの。

美紗 (呟くように)一郎さん、死んだのね。

静江 今朝の三時ごろ、七曲りの坂で事故をおこして、下の堀へ……

美紗 そうだったら、それは、あたしのせいなの。

浜口 (美紗に)お前、どうかしているんじゃないのか。

美紗 でも、そうなのよ。