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よんじゅうはちにんめ

四十八人目

森田 草平

「改造」1929(昭和4)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 56,183 字 · 112 页

青空文庫

彼はその間も始終右手の塀に目を着けていた。腰から下が羽目板になって、上に小屋根のついたもので、その中が座敷のお庭先にでもなっているらしい。ところどころ風通しの櫺子窓もついているが、一つ一つ内側から簾が下げてあるので、中の様子は見られない。爪先立ちをしてみても、植込の間から母屋の屋根つづきが、それもほんの少々窺われるばかりだ。

そのうちに、ふと一枚戸の中門が眼にとまった。ぴたりと閉めきってあるので、そのまま行き過ぎようとしたが、念のためだと二三歩後戻りをして、前後を見廻しながら、そっとその扉に手を懸けようとした。とたんに、行手の土蔵の蔭から声高な話声が聞えてきたので、小平太はぎょっとして飛び退いた。見ると、二人連れの侍が何やら話しながら、すぐ目の前へ遣ってくるのだ。彼はすかさず、

「少々物をお訊ね申しますが」と、小腰を屈めながら言った。「小林様のお長屋はどちらでございましょうか」

二人は立ち留って、じろじろ小平太の様子を眺めていたが、年嵩の方が、

「なに小林様? 御家老のお長屋はついその左手のお家がそうだ」と、顋をしゃくって教えてくれた。

「へえ、ありがとう存じます、まことに相すみませぬ」