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としょかん

図書館

宮本 百合子

「文芸」1947(昭和22)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,707 字 · 14 页

青空文庫

ぼってり太った、白い無精髭の生えた爺さん、この司書は体つきからして別人である。若い人は論外だし、もう一人いる人も、円いような顔の老人で、すっかり背中を丸め、机の下でこまかい昔の和綴じの字書の頁をめくっている。もうあの人もいなくなったのかもしれない。

時の推移を感じ、私は視線をうつして、前後左右に待っている閲覧人のどっさりの顔を眺めわたした。ここには青年が多い。それは、いつもそうであった。だけれども、今そこここに佇んだり、長椅子にかけたりして本の出されるのを待っている若い人々の顔つきは、こうして集っているところを見ると、もととはちがっているのにおどろかされた。何と、これらの若い顔々は、木彫りか土偶かのような、単純に目、鼻、口と切りあけたというようなマスクをしているのだろう。顔だちとしては、一人一人が別の自分の顔立ちをもってはいるけれども、奇妙な無表情の鈍重さが、どの顔にも瀰漫している。医大の制帽の下の眉の濃い顔の上にも。無帽で、マントをきた瘠せた青年の顔の上にも。しかも、その顔々は、図書館の広間に集り、街頭には無い何かのゆたかさを、それぞれの精神に摂取しようとして、待っているのである。