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こっきょう
国境
黒島 伝治
「戦旗」1931(昭和6)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,336 字 · 21 页
いくら渇を覚えても、氷塊を破って馬に喰わせるわけには行かない。支那人は一回、銅片一文を取って馬に水を飲ませるのだ。水が凍らないように、長い棒でしょっちゅう水面をばしゃばしゃかきまぜ、叩いていた。白鬚まじりの鬚に氷柱をさがらした老人だった。
税関吏と、国境警戒兵は、そのころになると、毎年、一番骨が折れた。一番油断がならなかった。黒河からやってくる者たちは、何物も持たず、何物をも求めず、ただプロレタリアートの国の集団農場や、突撃隊の活動や、青年労働者のデモを見たいがためにやってくる。そういう風に見える。しかし、なかには、大褂児の下に絹の靴下を、二三十足もかくしていた。帽子の下に天子印の、四五間さきの空気をくんくんさせる高価な化粧品をしのばせていた。そして、彼らが市街のいずれかへ消えて行って、今夜ひっかえしてくる時には、靴下や化粧品のかわりに、ルーブル紙幣を、衣服の下にかくしている。そんな奴があった。
二
北方の国境の冬は、夜が来るのが早かった。
にょきにょきと屋根が尖った、ブラゴウエシチェンスクの市街は、三時半にもう、デモンストレーションのような電灯の光芒に包まれていた。