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とちにかえる

土地に還る

豊島 与志雄

――近代説話――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,523 字 · 22 页

青空文庫

彼は彼女に手紙が書きにくく、打ち案じながら月日を過しました。罹災のことを書くとすれば、どうしても、火傷のことを書かなければなりませんでした。彼にとって真の罹災は、僅かな衣類や道具や書籍のことではなく、直接に肉体上のことでした。而もそれを除外した手紙は、今のところ全く無意味に感ぜられました。

彼は彼女のこと、遠い木村明子のことを、しきりになつかしく慕わしく想い偲び、胸を切なく痛めながら、もう二人の間は何か大きな運命とも言えるものに距てられた気がしました。その大きな運命とも言えるものの象徴が、彼のぎょろりとした大きな赤目でした。そのために彼はますます孤独になりました。

ただ一人で、時には淋しい憂苦に浸って、時には白けきった放心状態にあって、彼は耕作地の野菜を育てました。そういう時彼は、顔の左半面を太陽の光に曝しました。その無惨な火傷の跡を、白日のなかに恥じるどころか、寧ろ陽光に焼き焦がそうとしてるかのようでした。

そういう彼の火傷の跡を、何の憚りもなく好奇心もなく、謂わば無関心にぶしつけに、じっと見つめてくる眼が一つありました。田中正子の眼でした。