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トソンラン

土城廊

金 史良

「文芸首都」1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,752 字 · 52 页

青空文庫

路上の人々はにやにや笑いながらこんな異様な光景に目をやった。

元三はそれに先達一家を助けるということにも、人知れない悦びをもっていた。彼の身上、所謂恩に報いるということは彼には最も得意な所である。それで帰る時はいつも米を買い求めた。先達夫婦を感激させることが愉快でたまらないのだ。婦が言葉を尽して有難がる度に、爺は滅相もないとばかり両手を振った。「うふふ、何を云いなさるだね……」そして目を据えて宙を瞠める。「う、ただお互い様もたねえのでな。う、昔のように畑さ何町歩も持っていたらなあ……」それから舌をべろりと舐め、「全くこうなるちゅうこたあわっしゃ知んねえだったに……」

そしてへーと笑った。

だがそうこうする中に、先達夫婦の間には争いが絶間なく起って来た。先達は訳もなしに元三を憎み始めた。婦はそうなれば働き者の爺を引合いに出して、気力の弱って来た夫の気をいよいよ逆立てる。先達はますますいきり立って婦に悪たれをつき、さては忠良な元三さえ逆怨むようになった。だが奇妙なもので、丁度その頃から爺は自分の心が先達の婦へ傾きかけているのを朧げならが覚り出したのである。