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トソンラン

土城廊

金 史良

「文芸首都」1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,752 字 · 52 页

青空文庫

土城廊はまるで死のようにしんとしずまりかえっている。誰一人の影も見えず狂女の叫び声もいつしか消え、屠殺場からは家畜の雄叫びさえ聞えなかった。ポプラが葉ずれの音も立てずに静かに揺れている。ただ濁流だけは押し合いへし合い渦を巻きつつごうごうと転ぶように流れていた。静かなる一瞬間であった。だが気の所為であろうか、暫くする中にどこかですあーすあーと不気味な騒音が聞え出したようだ。そしてそれがだんだんと強くなって来るようだった。土城の南の端の方でも崩れ出したのだろうか。奔流が東側の沼地の方へなだれ込む音ででもあろうか。爺は茫然と流れに目をやっている中に、自分も押し流されてしまいそうに急に目がくらくらするのを覚えた。心持ちよろけそうな足元をじっと据えたが、胸は緊め木で締め附けられたように激しく鼓動した。

「先達は死んじもうただ。姐さんとあの餓鬼あどんげするだか」元三は形相いかつく強ばって自分に呟いた。「ふんとうにわっしが先達の恩を忘れねえで助けにゃなあ」

爺はどうしてもそう思いたいのだ。自分はやはりそうすることに依って先達にも報いることが出来る。そしてこの生き残った二人をやはり自分が助けるより仕方がないではないかと考える。