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もぐら

土竜

佐左木 俊郎

「文章倶楽部」1926(大正15)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,991 字 · 21 页

青空文庫

「ほださ。ここらへんに、これだけの長靴、持ってる人は無えもの。――巻き煙草は強くてな。」

併し、梅三爺は一本抜きとった。

市平も梅三爺も、村の人達の、「市平も、偉ぐなったもんだな。」という声を、自分の耳底に聞くような気がした。――梅三爺は、自分の伜ながら、市平があまりに偉くなってしまったような気がした。それは悦びばかりではなかった。爺は肝心な用事、市平を再び百姓の生活に引き戻すことについて言い出すことが出来なかった。

夜になって、色褪せた一張の襤褸蚊帳が吊られた。市平にはそれが、なんとなく懐しかった。涙含ましくさえ思われた。そして親子四人は、暫くぶりで一枚の布団にもぐりこんだのであった。ヨーギとよしとは、昼の疲れですぐ眠ってしまった。併し、梅三爺も市平も、心が冴えているようで、それに蚤がひどいので、なかなか眠ることが出来なかった。二人は長い間、寝返りを打ち続けていた。

「父も、一人では、ながなが大変だべな。」

市平は、こう父親に話しかけた。

「うむ。ほんでな、俺は市平に、貴様が、せっかく出世しかけだどこだげっとも、一つ家へ戻ってもらうべかと思ってな。