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ざいがくりゆう

在学理由

豊島 与志雄

「日本評論」1938(昭和13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,167 字 · 21 页

青空文庫

」

「それなんです。私にも分らないのは。」

そして彼は、植字工の父親に銘仙の着物をきせたり、同職の息子を、ずっと年若くして律儀な商店員にしたりしたことが、自分でもひどく嫌だったと告白した。

「つまり、小説を書こうとしたんだね。」

「そうかも知れません。先生が小説家なもんですから。」

そして彼は無心なとも云えるような笑みを浮べた。

然るに突然、彼はぶしつけに云いだした。――あの原稿はもう不用だから、先生に差上げる。書きなおして使って下すってもよい。その代り、全く別なことだが、三十円かして下さい。至急入用があって、困っているので、助けて下さい。お手許になければ、雑誌社に手紙でも書いて下さい。使は自分がする……。

吉村はちょっと呆れ返った。

「そんなに急なことを云ったって、僕の貧乏なことくらい分ってるだろうじゃないか。」

「私は急ぐんですけれど……。」

「まあ二三日待ち給え、考えておこう。」

そんなことで、李は帰っていったが、三日後にまたやって来て、三十円の催促をした。

吉村は更に呆れて、もう二三日待てと云って帰した。

三日後に、李はまたやって来た。吉村も諦めて、幸いそれくらいの持合せはあったので出してやった。