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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

女中が妙な顔をして彼女を見た。彼女は帯を解いて、薄手な藤色の長襦袢に着替えた。博多の細帯できつく腹部をしめて、鏡台に対ってあっさりと薄白粉を施した。

「おやすみなさい」

「おやすみなさい」

冬子は静かに蚊帳の中にはいって一方の床に身を横たえた。

不思議な夜であった。最初彼女は或る屈辱を予期して身を慄わしていた。しかし、部屋は森として人気のないようだった。彼女は眼を開いて隣の天野の様子を見た。彼は覚めているのか眠っているのか分らなかった。ゆるやかに四肢を伸ばし、仰向けに正しく頭を整えて呼吸の音さえさせずに動かない。腰のあたりまで夏蒲団を軽く乗せ、右手を腹の上へそっと乗せて、ただ幽かな胸から下腹への緩かな高低のみが彼の生を表わしているに過ぎない。彼はもう寝いったのか。自分のことを少しも念頭に置かずに眠ってしまったのか。もしそうなら自分は彼のために、「芸妓」「婬売婦」よりももっと何んでもない人間にあたるのかも知れない。それとも彼は黙想に耽っているのか。それにしてもあまりに厳そかで寛ぎすぎた静けさである。冬子は瞳を開いて水中のような冷やかさを感じて眠られなかった。