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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

大抵の来客は、ひっそりした広い部屋内の静けさと、容太郎の態度とに脅かされて半分の力も使えないらしかった。「あはっはっはっ……」と何かの拍子に彼に一つ哄笑されるともう大抵の者は逃げ帰ってしまうらしかった。そうした風になりきった容太郎はかつては彼の父の伝右衛門が熱中したように、事業欲に熱したのであった、酒の醸造、大仕掛の漁猟、付近の村や町との取引――という風に、明治も十四、五年になる頃は、彼の威勢は付近の村々にも鳴り響いていた。そうして彼の家庭の内部を一切しめくくったものは哀れな生まず女のお里であった。お光は幼い時分のことを想うごとに柔しいお里の生涯に感謝せずにはいられなかった。

お光が彼女の兄姉やお里に関する最初の記憶は妙に一生忘られない暗示に充ちたものであった。冷たい感触の漂う奥の仏室で、まだ五つになるかならずの彼女は姉の綾子(双児ではあったがお光は妹分にされていた、それは一生そうであった)と二人で紅椿の花で飯事をして遊んでいた。障子に薄日が薄赤く射していた。綾子に対しては何故か受動的であるお光は綾子の言うままに花弁を一枚一枚揃えていたのだ。綾子はお光の揃えた花弁を糸でつなぎあわしていた。