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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

君のは何と言ったらいいだろう――前世の業だね!」お光はぴりりと神経にこたえたが、兄は存外しずかに、罐詰の栗を、「うまい」と言って食べた。

「うまいだろう。この沖合で君と一杯やろうと思って用意して来たのだから。この沖へ来たときには大きい男の胸がわく/\したからね! ――それはそうとこの頃何を読んでいるのかね。この前会ったときはダアウィンの進化論で己を煙に捲いていたっけが」

「この頃は何も読まない。頭が重いし、暑さが身体にこたえて」

二人は浅い酒の酔いに頬をほてらしていた。お光も小さい盃に一杯注がれて身体中の血を熱くして来た。船頭のうたう出雲節がきれぎれに、

西が黒けれあ雨とやあら、東が紅けれあ風とやあら、

千石積んだる船でさえ、風があわねばはせもどうる……

と海の微風と共に送られて来た。

「綾子さんはたっしゃですか」と俊太郎が暫くしてたずねた。

「あいつはいつも元気で、家中自分のものにしていますよ。そうして――」

「そうして?」

「あはははは、君のことを言うときだけはおとなしくなるから妙です」

「そうか」と俊太郎はお光を見て微笑んだ。嬉しいのだとお光は思っていた。

「お光さんもたっしゃらしくて結構ですな」