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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

お光が大河に嫁して三年目の春五月、胃癌で患っていた容一郎は土蔵の(この土蔵は容太郎とお信の恋の廃墟であった)二階で縊死したのだ。しかも、遺書には全財産を大川村全体にお返しすると書いてあった。

全財産を大川村へ返却する! ああ自分の弱いことに悩みつづけていた容一郎の最後の人生への贈物はこの一事であった。人々は狂気したのではないかと言ったが、狂気の証跡はどこにもなかった。北野家は滅びてしまった。しかし容一郎の精神は永遠に生きるであろう。俊太郎はお光に「偉い、偉い! とう/\実行した! お前の兄貴は偉い!」と言ったが、その俊太郎の知己の言であることも、俊太郎の死後、年とってからようやく分ったことであった。

北野家が亡びた翌年、お光は平一郎を生んだのであった。そうして平一郎が三つの春、俊太郎は死んだのであった。俊太郎の死後、お光は平一郎一人のために彼女の後半生を捨てて、生活して来たのであった。ああ、その間の長い苦労よ。

このお光の生涯の一大転機はあの天野が綾子を「奪った」ことに原因しているのである。天野が綾子を辱しめなかったなら、綾子は真の恋人の大河俊太郎に嫁いだであろう。