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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

火花を散らし燃ゆる篝火の焔の間に質素な祭壇が、光と暗の間に見えた。

「気をつけえ!」

少年は森厳な気におされて、心から身を引きしめ不動の姿に唇を閉じた。焔が夜風に煽られてゆら/\と流れる。黒い影が静かに祭壇に榊をささげる。教師が一人一人捧げる。生徒総代が同じく榊をささげる。その静黙の夜空を遠く大砲の音が、どおん、どおんと響いて来た。

「最敬礼!」闇に六百の少年は長い敬虔な敬礼を行なった。そして頭を挙げたときには、もう篝火の火は消えて、余燼が闇に散らばっているに過ぎなかった。寂しくて厳粛であった。一同は一人一人夜露に湿れた草原を通って裏門から街の方へ去りはじめた。平一郎もその中の一人であった。彼は幾度も空を仰いだが、彼の好きな星は一つも見えなかった。群集におされて街中へ出ると、両側の家々には黒い幔幕が引きまわされ、黒い章のついた提灯が軒並に吊されてあった。この夜の午前零時を合図に行なわれた御大葬の式の御亡骸を遥かに見送り奉るため、一般市民は公園の広場に集まるのであった。平一郎は寂しくなっていた。去った冬子のことや、自分の運命の貧しさのことや、また和歌子のことや、遂には死ななくてはならない自分達であることやを考えて、誰一人高声で話すものもなしに街上を一杯に溢れて歩いて行く群衆の中に交って歩いて行った。