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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
と呟いた。
平一郎と深井は二人にまた来ることを約して戸外へ出た。尾沢は門口まで送って出て叫んだ。「失敬した、またやって来たまえ。――大河君、やって来たまえ!」
雪に湿れた路上に寒い月光が白く照っていた。二人は街角の柳の樹の下で寂しく別れを告げた。平一郎にとってはこの夜の会合は珍しい経験であった。尾沢という年上の青年、静子という若い、多分尾沢の愛人である女。全然新しい人間が平一郎の世界に出現したのである。それ等の人は学校の教師達からはまるで異なっている。何の憚るところもなく愛する二人が自由に愛し合っているらしい尾沢と静子とを羨ましくも思ったが、同時に、尾沢の部屋に充ちていたあの絶望じみた暗陰と無性な怠惰な精神を表わしている不潔とを本能的に嫌った。(どんなに貧しくとも、どんなに一切のものが醜悪であろうとも、またどんなにこの生が自分達に苦しかろうとも、なお希望に燃えたい)と平一郎は思った。それはとにかく、平一郎には彼等の自由さが憧憬された。半年ばかりの間に鮮やかに迫害を強めて来た彼の周囲への憎悪と憤怒が強いだけ、尾沢達の方へ彼の心は引きつけられた。殊に彼は深井がまるで彼に知らさずにああした人達と交わっていたことに、ある裏切られたやるせなさを覚えた。