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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
第八章
雪は深くは降らないが、降れば消えなかった。朝の凍って刃のような大地に冬の冷たい赤光がきら/\光った。それは三月の中頃のある朝、平一郎は丁度学年試験の第二日で、彼の好きな歴史と幾何の日であるので、薄暗くから起きて学校へ行く用意をしていた。春風楼の茶の間には淀んだ赤暗い電燈が灯されていた。彼は寝静まった人達の目を醒さないよう、昨日から雪片がしみついて鉄のようになった靴をはいて戸外へ出ようとした。戸をあけると白い三月の朝の明るみにすかされて、一通の封筒が土間に落ちているのが見えた。第一回の配達が戸のすき間から入れて行ったものらしい。彼は手にとって見た。手紙は見憶えのある手で「大河平一郎様」とあった。和歌子から来た手紙であった。彼は何んだか少しも歓びを感じなかった。(ああ、あまりに待たしすぎた便りではなかったか!)雪は降っていなかったが、凍結した堅い大地の上にくり/\の雪が一、二寸も積っていた。彼は外套の頭巾をぬいで、手紙を読みつつ歩いた。
……おゆるし下さいまし、おゆるし下さいまし、わたしが悪いのです、わたしが弱いのです。「何を怕がるのです、今に僕も成長きくなります)、と仰有ったあなたのお言葉はこの手紙を書いている時でさえ弱いわたしの心に鳴り響いています。