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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
やがて邸中の女中が七人、一人ずつ初対面の挨拶をして行った。奥山が一々まことらしく、「よろしくたのむ」を繰り返したのである。
「何という己は意気地なしの馬鹿だろう! いけない!」彼は一人になったとき襲ってくる悪霊を払いのけるように手を振り廻して、柳行李の紐を解いて硯やペンを取り出した。そして、母と深井と尾沢へ東京へ来てはじめての簡単な通信を書きはじめた。(ああ和歌子へ知らしたい。彼女はとにかくこの東京にいるのだろうに!)
八時過ぎに天野は自動車で帰って来た。平一郎は女中達と一緒に彼を出迎えたが、彼は見向きもせずに奥へ入ってしまった。彼はその「冷淡さ」の裏に下松町があり、「妾の冬子」があることを考えて暗鬱な気がした。(いけない。どうもいけない。どうもこう虚偽が堅められていてはいけない!)と彼はとっさに思った。三十分経ってから女中が平一郎を「旦那様がお呼び」だと言った。天野はこの邸でも、かつて金沢の古龍亭であったように下松町の別邸においてあったように、茶の間の中央に毛布をかけてゆったり寝そべっていた。綾子は火鉢にもたれて黙していた。
「お前、話をしたのかい」