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ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
「ええ、吉倉さんですよ」
「ほう――」と平一郎は自分の血の上気するのを覚えながら、「和歌子さんて居やしないかい」
「ああ、おとなりのお和歌さんかい」
「うん」
「いるよ、僕の家と庭つづきだからいつも遊びに来るよ、君、お和歌さんを知っているの?」
「――」
平一郎は息苦しくなったが我慢して平気そうに、「さよなら」を言って自分の家の方へ引き返して来たが、彼は明らかに不安と嫉妬とが胸に充ちたことを否定できなかった。彼は路々考えて来た。自分は今のさき迄は美しい同級の少年のために戦った任侠な強者であったが、今はこの美少年を自分の恋の競争者として迎えねばならなくなったらしいことを。彼は同級の深井の美しさを長田によってはじめて今日知ったわけではなかった。彼は深井の美しさを本当に知っているものは自分一人かも知れない、とさえ思っている。ただ彼が意識的に近づかなかったのは、十五の彼の心にも浸み入っている深井が、「よい家庭」の少年であることであった。彼が平常長田の乱暴と馬鹿とを憎みつつもなお一味の好意を持ち得たのは、長田の家が貧困であること、そうしてその貧困な彼も学校という王国のうちでは、わりにその巨大な肉体の実力によって威張りちらし得ることにあった。