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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

どんなに雪の降る冬の朝でも止す訳にゆかなかった。それがすめば掃除の手伝い。ようやく朝飯がすむと師匠のところへ踊りや三味線の稽古に通わねばならない。それは彼女にとって苦痛だった。芸道は彼女に少しも楽しみを感ぜしめなかった。早く大きくなって姐さん達のようにいい着物をきてお酒を飲んだり、御馳走を食べたり、男の人達と一緒に騒ぎたいものだと一心に願った。彼女は早熟で十四の春にはもう事実上少女でなかった。白粉を塗り紅をつけ、縮緬の着物をきた舞妓姿で「旦那、今晩は」と座敷へ出たときには大変な出世をしたような気がした。男から「時ちゃんは俺のいい子だね」とか「可愛いいやつだ」とか言われるのが嬉しくて堪らなかった。彼女は夢中だった。虐げられていた一切の欲念がはじめて解放されたのだった。彼女は食い飲み、騒ぎ、またあの辛いこととせられる一つのことさえを貪るように受用した。賑やかな、気のさくい、そしてすぐある欲求を充たしてくれる若い女として、彼女は学生や青年の性欲に飢えた人間にもてはやされるようになって、しかもそれで満足していた。疲れた肉体と掻き乱された魂と、低級な満足とを抱いて、この朝をいぎたなく眠っている時子の姿は、冬子にとっては浅ましい哀れさとある悲しい反省とを喚び起こした。