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ちずにないまち

地図にない街

橋本 五郎

「新青年」1930(昭和5)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,139 字 · 32 页

青空文庫

やがて二人の達した別荘なるものは、そうした町の一角に相当大きく、そして黝くそびえていた。が、とりまわした塀も見えず、どこにも明りを見ることはできなかった。空をくぎった黒い影で、氏はその建物の洋館であることだけは悟ることができた。

「もう門が閉まってるからな、俺がちょいとおまじないをして来るまで待っているんだ」

老人は低声にいって、それから建物の表てと覚しい側へ廻って行った。暗い地上に独り立って、氏が再びこの老人のうえにいろいろな想像をめぐらしたのは勿論である。だが不思議に、今は老人の言動を、何も疑う気になれなかったと氏は話した。

「さあ、入ったらいい。うまくいった」

闇の中から声がして、思いもかけぬ氏の面前に穴があいた。建物の一つの戸が開かれたのである。

「そこで靴をぬいで、段があるんだから」

老人の注意がなかったら、その時氏はすぐ前の上がり段に、あるいは向こう脛を打ちつけただろう。まるで胸をつくようなせまい廊下だった。廊下を老人について一曲がりすると、ぽうっと左手の部屋から明りが流れていた。八畳の部屋を二つ、ぶちぬいたと覚しい大きな部屋が、廊下との境いに障子一つなく、氏の眼の前に現われたのである。