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ちずにないまち
地図にない街
橋本 五郎
「新青年」1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,139 字 · 32 页
たとえば昨夜の煙草である。あれは老人が付近の射的屋へ行って、ただその顔をのぞけただけでもらって来たものだというのである。
老人はかつてその十二軒だか並んでいる射的屋の一軒一軒を、頃をはかって、
「よう今晩は」と入って行った。そして、「どうだい姐さん、俺にいくらでもうたすかね?」
と台に半身を泳がしていったのである。
第一の射的屋では、
「さあどうぞ」
とあっさり弾をつきつけられてしまった。すると射的なんか全然できない老人は、
「はっはっは、姐さんはまだ若いね、そうムキになられるとこっちがうてなくなる。気の毒だからまあこのつぎにしよう」
とそのままつぎへ廻ったのであるが、見も知らぬ老人の腕前を、どこにうたさぬ先から見ぬく射的屋があろう、老人はそこでも弾をつきつけられた。が、同じ言葉をくり返して、老人はたゆまずその十二軒を廻ったという。
ところが面白いことには、その七、八軒目から、もう老人の後には、用のない弥次馬がうんと従いて来て、それらが老人が射的屋へ入るたびに、コソコソと、
「あれやお前、××の年寄で、これで身代を潰しちゃった人間だよ」とか、
「この人にうたしたら、射的屋が幾軒あったって一軒だって立っちゃゆかねえ」