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ちずにないまち
地図にない街
橋本 五郎
「新青年」1930(昭和5)年4月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,139 字 · 32 页
まことに世をすねた好事家が、ひそかに暇潰しにこしらえたとも呼びたい、それはなんの意義をも持たぬかに見える全くの袋小路であった。
行くことわずかにして、いわれた通りの板塀に突き当たった。氏は押してみた。そして驚くべきことには、そこにまた、かの老人のいった如くに、そこにはいとも物静かな、格子のあるしもた屋の一番地が、ひっそりと氏の前にひらけたのである。氏は思い切って静かに口笛を吹いた。そのやわらかな音律は、人ひとりいるとも見えぬその家々の軒を、格子を、ノックするように流れていった。
私はここで、それから氏に起った一つの事件を語るのを好まない。が、ここまで書いてきた順序として、その一軒で、氏がひとりの婦人と交渉を持った大体をいおう。
東京のまっただ中に、そんな限られた海へ出る人の一町があるのだとは私も信じ得ないが、そこは要するに留守を守る女ばかりの一区劃であって、氏が誘われた一軒は正にそうした長い間不自由の苦しさを感じているひとの住居だったのである。氏が誰の案内もなくそこへ行ったことは、ことに相手のひとに喜ばれて、氏は実に一週間という驚くべき毎日を、その相手のひとと面白くなやましくすべてを忘れて明け暮した。