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さかたのばあい

坂田の場合

豊島 与志雄

――「小悪魔の記録」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,335 字 · 29 页

青空文庫

百万からまた……。」

「それだから、お伽噺ですよ。千万になろうと、十億になろうと、お伽噺だったら、構わないじゃありませんか。」

「いや……危い。」

「危い……って、なんですか。」

「お伽噺が崩れる。」

「そんなことはありませんよ。お伽噺に限度があるでしょうか。千万だの十億だのという数は、お伽噺の中にはないんですか。」

「数はある。然しそれが金となると、もう架空のものでなくなる、お伽噺でなくなる。」

「そんなら却って、すばらしい美術品とか宝石とかにしたら、お伽噺になりますよ。或は、大きな広い森だとか、山だとか、島だとか……。」

「僕もそれは考える。……然し、その前に、やはり危い。」

「どうしてです。」

「無から生じた有という、根本の問題だ。」

「だって、お伽噺はみなそうじゃありませんか。」

「いや、ちがう。初めからあったんだ……架空のものにしろ、実質的なものにしろ……。」

「初めからありゃあしませんよ。」

「初めからあったんだ。」

とうとう水掛論になってしまった。こうなると、俺は黙りこむ方がいいんだ。

坂田は深い瞑想に沈んでるようだったが、ふと立上って、室の中を少し歩き廻り、それから帳簿をしまいこみ、長椅子にねそべって、また瞑想に沈んだ。