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さかたのばあい

坂田の場合

豊島 与志雄

――「小悪魔の記録」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 14,335 字 · 29 页

青空文庫

「仰言ってることは嘘です。」と敏子は云った。「兄はもう救われなくなってるのかも知れません。毎晩のようにお酒に酔って帰ってきます。それに、あれですっかり整理がついたと思っていましたが、まだいくらか残っていたようですし、なおちょいちょい相場にも手を出して、新たな借金もこさえたようですの。そしてこの頃では、蠣殼町へんをうろついて合百とかいうようなものをやってる様子ですの。なんでも、二三円あれば出来るものとかききましたが……そして、そんなことをするのは、乞食も同様だそうですけれど……。」

彼女は真赤になってそして真剣に、じっと坂田の顔を見ながら、ずけずけと而も整然と云い進んだ。が坂田は眼をそらして、何か他のことを考えこんでる様子だった。

坂田はふいに顔をあげて、敏子を眺めた。が然し、まだ遠い視線だった。

「中津君は、なぜ相場なんかに手を出したんですか。」

ぼんやりした調子だったので、それが却って敏子の胸によくはいったらしく、彼女は曖昧な微笑の影を浮べて答えた。

「やっぱり……お金がほしかったのでしょう。」

「そんなに必要だったんですか。」

「どうですか、あたしには分りませんけど……。