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つぼうちせんせいについて

坪内先生について

宮本 百合子

「文芸」1935(昭和10)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,580 字 · 4 页

青空文庫

粋なところがおありになった。私は、日本の粋というものを持ち合せないもので、そのことを自身遺憾としていないたちの人間である。先生と自分とが違ったたちの人間であることを、私は尊敬のうちに漠然と感じ、それは先生が芝居の神様のような立場に既に久しくおられるからのところもあろうかと、幼稚ながら考えたりした記憶がある。

坪内先生は、私の原稿を細かく読んで下さり、例えばこういう意味の重大な注意を与えて下すった。一旦作品の中に登場した人物がどこかでスーと消えてはいけない。必ず結着ある退場をするように描かれなければならないし、又スーと立ち消えるような重要性のない人物がドタドタ作品の中に出て来ることはよくない、と。

これは、あらゆる時代に小説を書く上での意味ある注意として役立つものであろう。

先生は、その時に、小説に師匠はいらぬ、お前はお前のやりたいようにやって行け、という意味のことをも云われたと思う。何しろ十八や九の小娘が小説を書き出し中央公論に発表されたと云っても、謂わば芸術家としてそれはまだ海のものとも山のものともつかず、前途は茫漠としている。先生は、人生の練達者であられたから、恐らく様々な複雑困難な、日本の社会では特に女にとって面倒な将来の永い路を見とおされて、大乗的激励を与えて下さったのであったろうと思う。